この記事は、株式会社ナイアンティック村井説人社長のトレンドエキスポ東京2016での講演をまとめたレポートPDFのアーカイブ記事です。PDFのダウンロードや引用もご自由にどうぞ。
また、日経トレンディネットでの本講演に関するレポートも合わせてどうぞ。
『Harry Potter : Wizards Unite』(邦題未定)を発表したNianticがどんな企業なのか、Ingress(イングレス)やポケモンGOがどんなプロダクトで、どんな影響を社会に与えてきたのかを知る上で欠かせない講演だと思います。
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講演概要:
【トレンドエキスポ東京2016基調講演】
「リアル・ワールド・ゲームのインパクト〜『ポケモンGO』や『イングレス』は、ビジネス、社会にどのような影響力があるのか」
株式会社ナイアンティック代表取締役社長 村井説人氏
日時:2016年11月12日
会場:東京ミッドタウン
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村井社長はまず、ポケモンGO(Pokémon GO)について、「7月のリリースからポケモンGOは5億ダウンロードを記録しているが、まだまだスパイクしていて、サーバー増強中である。」と述べました。
Niantic(ナイアンティック)は位置情報ゲームではなく「リアル・ワールド・ゲーム」と呼んでいて、それは医療の分野、教育の分野、人と人のコミュニケーションに影響を与えるものである、と述べました。
AR(Augmented Reality、拡張現実)はNianticを語る上では外せない技術であるとした上で、
「VRは今あるものをより楽しくするもの、本来ないものをそこに実現する(例えば、好きなアイドルと共に踊る・プロアスリートとの対戦など)ものである。」
「ARはデバイスを通じて現実に新しい情報を付加して新たなレイヤーを作る、その場でしか体験できないもの。」と位置づけていました。
Googleの社内スタートアップであったNianticはかつてアメリカでのゴールドラッシュに使用された船の名が由来であること、GoogleマップやGoogleアースはKeyholeがあったからこそのものであるということも仰っていました。
NianticのCEOであるジョン・ハンケさんは「自分の周りに何があるのかをもっとよく知る。自分の足で歩いて、自分の目で発見する。自分の身の周りを幸せにする。それが世界中で起これば、世界は良くなる。」ということを過去に述べていて、それが”Adventures on foot”、つまり「人は歩けば幸せになる」という考えに繋がっている、また、GoogleマップやGoogleアース、Googleムーンといった自分が動かなくても素晴らしさを知ることができるプロダクトの開発を進めた先に見つけたものがNianticであると村井社長は仰っていました。
プロダクトに関して、村井社長は最初にイングレス(Ingress)について触れました。
「イングレスはエキゾチックマター(XM)という物質の使い方を巡って青のレジスタンス(Resistance)と緑のエンライテンド(Enlightened)に分かれる陣取りゲームである。陣取りゲームであるため、ポータルからポータルキーを発掘し、ポータルとポータルを線で結び三角形を作り、その合計点を競うもの。」と概要について述べました。
スキャナー画面と呼ばれるゲーム画面に写るポータルは遺跡・史跡といった歴史的建造物や芸術作品から構成されるもの、光る粒子はXMであることを説明しました。
そして、村井社長はイングレスのゲーム内容に影響を与えるSFドラマの始まりがCERNであることに触れました。「始まりは暗黒物質を研究するCERNという機関であり、日本のKEKと共に世界で2つある暗黒物質の研究機関である。」
「暗黒物質の1つであるニュートリノの存在は長く噂されてきていて、実際に存在が確認された。」
「そして、次に重力に作用するグラビトンという一種の暗黒物質の存在が噂されている。」
「重力が起こるのは何かが作用するからであることまでは分かっているけれども、未だ謎が多い。」と暗黒物質を例に挙げながら、「目に見えるものが全てではない」ということについて述べていました。
「目に見えるものが全てではない」ということに関連して、ハンケさんが日本を愛し毎月のように来日していることに触れました。
そこで、ハンケさんは過去に「京都で枯山水を見た時、私はその場から動くことができなかった。こんなにも人を魅了する庭があることに驚いた。」と述べていて、目に見えない何かの物質が自身に働きかけたのだと考えたハンケさんはXMのアイディアを生み出したのだ、と村井社長は仰っていました。
次に、村井社長は”イングレスの4つの指針”について述べました。それは、
1.全世界が舞台
→Nianticはグローバル企業であり、特定の地域にターゲットを絞ったプロダクトは出さない。
2.動いて遊ぶ
→美しい天気の日に家の中で長時間ソファに座る・ゲームをする子ども達をどのようにして外へ連れ出すかを考えると共に、囲碁や将棋といったテーブルゲームにもある”ゲーム性”を大切にする。
3.新しい視点から見ること
→その土地に隠された物語や人々が何度も通りかかる場所に隠されているものに気づき、最終的にはその土地の地域コミュニティに気づく。
4.現実世界の友情を作る
→イングレスはMMORPG(大規模多人数同時参加型ゲーム)だが、プレイヤー同士のコミュニケーションが生まれる場が現実世界であることが特徴的である。
以上の点でした。これらと共に、
・イングレスは200ヶ国で配信され2億5800万km、ポケモンGOは150ヶ国以上で配信され46億km歩いたこと
・Helios(ヘリオス)台北・Interitus(インテリタス)石巻・Persepolis(ペルセポリス)仙台・Darsana(ダルサナ)東京・Shonin(ショウニン)京都・AegisNova(イージスノヴァ)東京の様子を取り上げ、イベントが人々を動かす動機づけの1つであり、自治体首長の出席が増えていること
・iOS版リリースというのが日本では重要な要素であったこと
にも触れました。
村井社長は更に、「イングレスとポケモンGOをリリースしたNianticはゲーム会社ではなく、プラットフォームを開発する企業であることから1年2年ではなく、"一生の友人として一生付き合うように"開発を行う」と仰っていました。
次に、村井社長はイングレスにおいて人種や国境、宗教、性別という壁を越えた繋がりを生み出した例としてイスラエルでの作戦等を挙げました。
他にも、岩手県をはじめとする自治体主体の企画、あるいはユーザー主体のイベント、ミッションデイ、InitioTohokuMission(イニシオ東北ミッション)を挙げていました。
そうして、講演の中心はポケモンGOへと移りました。
村井社長は、ユーザー主体、あるいは自発的なイベントが起こった例として、ポケモンGOにおけるシドニー・シカゴ・サンフランシスコでの様子を挙げ、「見ず知らずの人が集まり、人種や国境、宗教、性別という壁を越えた繋がりを生み出したのはポケモンGOでも同じである」と述べました。
ポケモンGOが医療の分野において様々な効果を与えていることに触れ、最初の例として体重が減少した事例を挙げました。
医療の分野での効果の例として、村井社長は2つ目に、1通の手紙を紹介しました。それは、自閉症の娘さんがポケモンGOによって自ら外へ出るようになったというご両親からの手紙でした。
「そのご両親は手紙で『十数年闘ってきたけれども、それは娘だけの闘いではなく、自分達家族の闘いでもあった。そして、ポケモンGOがリリースされたことで、今では近所の見ず知らずの人とどこにどんなポケモンが現れたのか等とコミュニケーションをするほどになっている。』と述べられていた。」と村井社長は仰っていました。
更に、シカゴの小児病棟での例も挙げました。
「小児病棟で過ごす子ども達は身体を動かすことがマンネリ化して飽きつつあった。ポケモンGOがリリースされたことで、子ども達は病棟の中を歩き始め、医師達もポケモンGOをネガティブに捉えることなく、彼らもプレイすることで子ども達とコミュニケーションしている。」と村井社長は仰っていました。
次に、村井社長はポケモンGOにおけるローカルビジネスについて触れました。
「ポケモンGOをプレイする内に、喉が渇いて飲み物が欲しくなることはある。そこで人々がその地域の店で飲み物を買う、という流れもあり、将来的にはローカルビジネスにおけるポケストップの設定やルアーの利用等を考えていく。」と仰っていました。
次に、村井社長はポケモンGOにおける自治体の取り組みについて触れ、京都府・京都市との観光面での取り組み、神奈川県横須賀市による「ヨコスカGO」、鳥取県による「トットリGO」、既に発表された東北3県との取り組み、そして宮城県でのポケストップ追加イベント”Explore Miyagi”を挙げました。
こうしてポケモンGOが普及していく中で、村井社長はシニア層がポケモンGOをするためにスマートフォンに替えたということに触れ、こうした変化は非常に素晴らしいと仰っていました。
次に、村井社長はマクドナルドとのパートナーシップに触れました。
「マクドナルドとのパートナーシップによってマクドナルドの売上が25.6%アップしたとあるが、その全てがポケモンGOによるものではないだろう。マクドナルドは普段から魅力ある商品を提供している。それがポケモンGOによる集客が重なり、売上が増加したとみていて、集客と購買は別々であると考えている。」と仰っていました。
最後に、村井社長は、Nianticは今後も人を動かすことに取り組み続けることを述べて、講演は閉じられました。
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